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『未来のアートと倫理のために』
内山幸子「水平を共に目指して」
緒方江美|アフリーダ・オー・ブラート「明日、突然当事者になっても、〈私たち〉は死なない」論評
北村智子(Webメディア「paperC」事務局/おおさか創造千島財団 理事)
ともに関西の有能なアートマネージャーとして活躍している内山幸子さんと緒方江美さん。本書では、彼女たちの歩んできた道のりと、社会のさまざまな立場の人たちが対等な関係でアートと関われる場づくりの実践が綴られている。
内山さんは、メキシコでさまざまな属性のメンバーが公平にそこにいることを認められる場を体験し、そのあり方を地元・高槻で自ら立ち上げた「五領アートプロジェクト」に導入する。参加者である五領地区の住民たちと、招聘したアーティスト、そして企画者である自身の間に不均衡を生まない“水平”な関係を築くための配慮や工夫の数々が興味深い。差別や排除は、よほど意識していなければ、気付かないうちに生じてしまう。それを避けるための細やかな対応はプロジェクトを継続する上で重要だろう。
アートマネージャーでドラァグクイーンという2つの顔を持ち活動する緒方さんは、ある日突然自死のサバイバーというマイノリティになるが、他者を排除せずに認め合うクイーンのコミュニティの中でその当事者性を受け止め、現在はセクシュアルマイノリティの表現やドラァグクイーンカルチャーが芸術文化の世界でも対等に認められ活躍できる素地をつくろうと活動を進めている。アートマネージャーのスキルをドラァグクイーンとしての使命に活かすという、2つの顔が融合した彼女にしかできない境地を開いているのが印象的だ。
ところで、両者のテキストは、アートマネージャーとしての働き方を考える上でも示唆に富んでいる。2人ともそのキャリアを被雇用者からスタートし、組織において生じるジェンダーやヒエラルキーなどの問題に疑問を持ちフリーランスに転身して、新たなプロジェクトを立ち上げるに至った。自分が納得できる働き方を求め、アートマネジメントを実践する環境を自ら開拓し奮闘する努力には敬意を表したい。
本書がアートマネジメントの現場で迷いや葛藤を抱えている人を勇気づけ、状況を変えるために動き出すきっかけになることを願う。