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『未来のアートと倫理のために』
今井朋×樅山智子×あかたちかこ
「誰と、どうやって、手を結ぶ? アウトリーチ再考」論評
奥山理子(みずのき美術館キュレーター、Social Work / Art Conferenceディレクター)
「いま、ここで起きたことを、ちゃんと言葉にして共有しておきたい。」
そう思ったのも束の間、あっという間に現場の潮目は変わり、立ち止まることさえもままならず、留めたかった出来事は人知れず記憶の片隅へと追いやられて行く――。さまざまなコミュニティで創造活動を行う人(それがアーティストであっても、マネジメント職や受け入れ側の立場であったとしても)であれば、こうした経験は一度や二度ではないはずである。
本章に収められた鼎談は、そうした、展覧会の会場や図録の中では残しがたい現場での瞬間的な出来事や、プロジェクトに挑む当事者の揺れ動く心の内を収録することに成功した、数少ない対話ではないかと思う。やり取りが和やかに進む間柄であることは想像できても、アーティスト、キュレーター、福祉従事者という異なる立場に身を置く三者が、それぞれから見ている景色と感じる気持ちを正直に伝え合えている状況にも興味を覚えた。話者の高い言語力や鼎談の場の行き届いた設定はもとより、一人ひとりにとっての意図せぬタイミングの良さ、語るために必要な歳月を経たからこその心境も関係しているように思えた。
鼎談の中にもあったが、マイノリティ性を持ったコミュニティで活動を行っていくと、「その活動がアートでなくてはならない理由」が揺らぐことがある。それは、現実的で具体的な課題解決が鍵を握っていることが自明な場面に出くわしたり、アートだけの問題ではない人の尊厳の部分に触れたりする時に生じる。そのような葛藤に立ちすくみかけた時には、樅山智子氏が語った「倫理的な態度の中にこそ美がある」という考え方を何度も反芻したい。これは、創造的な協働活動の未来を支える大切な指針となるだろう。
私たちは、アートのためのアートを行っているわけではなく、人々(その中には自分自身も含まれる)が生きる社会の中で起こるさまざまな出来事について、ともに考えるひとりの存在でありたいのだ。