program
ネットワーク構築ゼミ-1 現代メキシコの女性アーティストたちの活動から
【日時】2021年10月10日(日)、23日(土)各日13:30-15:00
【講師】菅野優香(同志社大学大学院 グローバル・スタディーズ研究科 准教授)、ナオミ・リンコン・ガヤルド(アーティスト)、ダリア・チェルニシェバ(アーティスト)、内山幸子(本事業プロジェクトコーディネーター)
近年メキシコでは、女性や、ジェンダー平等を求める活動家が誘拐・殺害される事件が明るみになり、これに対して各地で女性たちが連帯し、声を上げてきました。メキシコの少なくないアーティストたちもこれに同調し、様々な実践を試みています。本ゼミでは、メキシコを拠点に活動する2人のアーティストの活動から、メキシコ社会におけるフェミニズムやジェンダー、クィア批評などへの考察と芸術実践について紹介します。彼女たちの実践を知ろうとすれば、必然的にスペインによる植民地化やそれに伴う混血化といった、メキシコ特有の歴史や社会背景に目を向けることになります。本ゼミでは、グローバルな視点で上記のテーマを捉え直しながら、課題を共有することで、本事業が3年後に実施をめざす「プライド・アートプログラム(仮称)」に向けて、海を越えた連帯とネットワーキングの基盤を作ります。
菅野優香さんによる基礎レクチャーはゼミ受講生以外も聴講可能です。
①基礎レクチャー
「クィア・オブ・カラー批評―アメリカにおける非白人の知と経験」
【日時】10月10日(日)13:30-15:00 ※ゼミ受講生以外も聴講可
【講師】菅野優香(同志社大学大学院 グローバル・スタディーズ研究科 准教授)
【定員】100名程度
「クィア・オブ・カラー批評」は直訳すれば、有色(人種)のクィア批評であり、クィア理論において、人種とセクシュアリティが分離されて論じられる傾向を内部から批判するために生まれた言説である。ロドリック・A・ファーガソンによる『黒い逸脱:クィア・オブ・カラー批評へ向けて』(2003)がその嚆矢とされるものの、ファーガソンの議論は、1990年代の黒人の理論家やアクティビスト、とりわけ黒人レズビアンたちが行ってきた仕事を土台とし、それを発展させたものだといえる。今回の講座では、「クィア・オブ・カラー批評」を先導し、触発した、黒人レズビアン理論家やアクティビストたちの仕事を紹介しながら、クィア・オブ・カラー批評が何を問題化したのかについて考えてみたいと思う。また、2000年以降、ファーガソンと共鳴するようなかたちで生まれてきた「クィア・ディアスポラ」(ガヤトリ・ゴピナス)や「ディスアイデンティフィケーション(非同一化)」(ホセ・E・ムニョス)といった非白人のクィア理論家の仕事と「クィア・オブ・カラー批評」の接続を試みる。
[共同開講]
2021年度 文化芸術による共生社会実現に向けた基盤づくり事業 文化芸術による共生社会実現のためのアーツマネジメント講座2021「共生とはなにか」(主催:一般社団法人HAPS)
②ゼミ
【日時】10月23日(土)13:30-15:00
【講師】ナオミ・リンコン・ガヤルド(アーティスト)、ダリア・チェルニシェバ(アーティスト)、内山幸子(本事業プロジェクトコーディネーター)
【対象】アート表現やアートプロデュース、表現倫理を学ぶ学生、アートプロジェクトの運営にかかわる実務者、大学教員をはじめとした研究者等。実務経験は問わない。
【定員】15名程度(基礎レクチャーのみ100名程度)
【開講形態】オンライン。Zoomアカウントでの受講
【申込フォーム】
①基礎レクチャーのみ https://forms.gle/4ZzVPBijpMH7B2Us7
【申込締切】2021年10月9日(土)
②基礎レクチャー+ゼミ https://forms.gle/8n9bGVdWBDNLJh6n8
【申込締切】2021年10月16日(土)
講師 profile
同志社大学大学院 グローバル・スタディーズ研究科 准教授
菅野優香
同志社大学教員。専門分野は、視覚文化研究、クィア・スタディーズ。映像におけるジェンダーやセクシュアリティ、人種の問題に関心を寄せる。近著に「政治的なことは映画的なこと― 1970年代フェミニスト映画運動」『思想』(2020年3月号)、「コミュニティを再考する―クィア・LGBT映画祭と情動の社会空間」『クィア・スタディーズをひらく』(晃洋書房、2020年)など。11月に編著『クィア・シネマ・スタディーズ』(晃洋書房)を刊行予定。
アーティスト
ナオミ・リンコン・ガヤルド Naomi Rincón-Gallardo
メキシコシティとオアハカを行き来しながら活動するビジュアル・アーティスト/リサーチャー。ネオコロニアルな文脈における、ヘテロ家父長制による収奪のプロセスに対するレジリエンス、不服従、欲望の物語を作り上げ、思弁的小説やシアターゲーム、ミュージック・ビデオ、土地固有の祝祭や工芸品に対するクィア/脱植民化の観点からの関心を統合し、作品制作を行う。アート活動と並行して、教育機関や非教育機関、コミュニティでのプロジェクトに参加し、指導やコーディネーションも行う。ウィーン美術アカデミーにて博士号取得。現在、Fondo Nacional para La Cultura y las Artes(メキシコ国立文化芸術基金)のプログラムSistema Nacional de Creadores de Arte 2019-2022メンバーとして支援を受け活動している。
http://naomirincongallardo.org
アーティストからのメッセージ:
私は自らを、南半球出身の有色のクィアで脱植民地のフェミニスト、ビジュアル・アーティストで、抜け目ない研究者だと位置づけています。その作品は解き放たれたヘテロ家父長制の暴力と国境を越えた抽出主義の文脈の中で、集合的な変化、癒し、祝福、復讐の物語を、分野横断的に語ろうとするものです。ここ数年は、メキシコの領土における土地や文化、身体の収奪に対する人種化された女性たちの抵抗の物語を研究してきました。私の作品は、有色人種の女性や黒人のフェミニズム、有色のクィア研究、脱植民地のフェミニズムの遺産を相互に強化しながら活発化させることを目指しています。制作の過程では、身体化された経験や肉感的な事柄、関係性のパフォーマティヴな上演を表現することにこだわります。私は自分の作品を神話的/政治的なシュールレアリズムと定義するようになりました。その世界観は、ファンタジー、白昼夢、官能、無駄、不条理、不穏な暗闇の中にあります。幽霊、満たされない夢、中断された反乱を喜んで受け入れます。物語には、メソアメリカの宇宙論に触発された人間や非人間のキャラクターが登場します。しかし、その遊び心のあるプロットは、希望や憧れ、欲望との生産的な緊張関係の中で、憤り、怒り、拒否によって焚きつけられているのです。
アーティスト
ダリア・チェルニシェバ Daria Chernysheva
1979年タジキスタン生まれ、メキシコ・オアハカ州在住。国立絵画学校を卒業後、2009年、メキシコ国立美術研究所で彫刻および版画を学び、アート制作においてコレクティブやコラボレーティブなプロジェクトに取り組む。2010年にメキシコシティにてアートコレクティブCooperativa Cráter Invertidoを共同設立しメンバーとして活動、2013年から2017年までフェミニスト・アートグループINVASORIXの一員としても活動。近年はオアハカのサン・アンドレス・ウアヤパムにて、協働・子育て・学び直し(unlearning)・共有のためのコミュニティスペースでありプロジェクト「Rancho Cosijo/Piru-Korima」の構築に携わる。
https://www.instagram.com/piru_korima_rancho_cosijo/
アーティストからのメッセージ:
2014年に私の娘が生まれてから、私は自分自身をアーティストであり、母親であり、フェミニストであると位置づけてきました。私の活動は母性を題材にはしませんが、母性から出発しています。社会的状況と個人的な経験の両方を思考しながら、母親であることが意味することの複雑さに関心を向けているのです。コレクティブな日々の実践に滋養を与えること、家父長制による教育システムの脱構築に参加すること、ネットワークを紡ぐことに注意を払いながら、昨年のパンデミック以降は特に、共有や学び直し、創造のためのコレクティブな空間という、新しい領域を構築することにフォーカスしてきました。
アートマネージャー/本事業プロジェクトコーディネーター
内山幸子
1977年兵庫県生まれ、大阪府在住。秋吉台国際芸術村での勤務を経て、2011年より1年間、日墨政府の奨学金を得てメキシコシティを拠点にコミュニティアートの調査を行う。2012年よりフリーランスのアートマネジャーとして活動し、2017年に大阪府高槻市で五領アートプロジェクトを立ち上げ。京都精華大学「芸術実践と人権──マイノリティ、公平性、合意について」プロジェクトコーディネーター(2018−2020)。共著書『未来のアートと倫理のために』(2021年、左右社)に「水平を共に目指して メキシコと五領を往来して考えたこと」を寄稿。
五領アートプロジェクト https://goryoartproject.com