一昨年度より2年間、私どもは「芸術実践と人権」という一連のプロジェクトを展開しました。そこでは、レクチャーシリーズやゼミを通して「人権」や「マイノリティの権利」を軸に、アートと社会との関係やその可能性について多くの皆さんとともに考えてきました。
本年は、地域に根差した実践プログラム等に加え、これまでの公開プログラムと、国内外の事例調査をもとに、これまでのゲストの方々へ執筆、対談、鼎談を行う形で、本事業の3年間の総括として書籍を制作・出版いたしました。
芸術と社会の関わりが深くなっている近年、芸術実践の評価が単に美的な評価にとどまらず、社会的な評価軸へと移りつつある現状があります。
例えばいわゆる社会包摂型アートプロジェクトでは、単にマイノリティと共にアートプロジェクトを行ったり、当事者団体で企画を立案するだけではなく、いかにマイノリティやマイノリティをめぐる社会状況に影響を与えたかが重要な観点となります。
本書を通じ、アートプロジェクトや芸術実践に関わる人々が、人権や表現倫理について特に現場でその運用に迷ったときに参照し、現場に役立つヒントとなれば幸いです。
book
「アートにおける倫理」をテーマにした必携の入門書
『未来のアートと倫理のために』出版
対等にアートを作るってどういうこと?
アート界のジェンダー不平等、見えなくされる芸術労働者、マイノリティと表現の自由、美術館のアイデンティティ、公平性とアートマネジメント、制作と合意…。
芸術実践における倫理のあり方と公平な社会の可能性をアーティスト・アートマネージャー・キュレーター・ドラァグクイーン・ゲームクリエイター・ソーシャルワーカー・社会学者・弁護士らが共に探った、これからのアートを考える人に必携の一冊。
目次|
Ⅰ実践 編
今井朋×樅山智子×あかたちかこ「誰と、どうやって、手を結ぶ? アウトリーチ再考」
小泉明郎×山田創平「他者から生まれる倫理」
内山幸子「水平を共に目指して メキシコと五領を往来して考えたこと」
吉澤弥生「芸術労働者の権利と連帯」
竹田恵子「日本の美術界のジェンダー構造と新たな取り組み」
飯田和敏×鷹野隆大×あかたちかこ「欲望を揺らがせる 身体・ゲーム・セクシュアリティ」
緒方江美 | アフリーダ・オー・ブラート「明日、突然当事者になっても、〈わたしたち〉は死なない ドラァグクイーンとアートマネジメントの実践現場から」
ウー・マーリー(訳=岩切澪)「キュラトリアル・アクティヴィズム 台湾の探究と実践」
Ⅱ 理論 編
住友文彦「美術館は多様性を反映できるのか」
猿ヶ澤かなえ「フランスを例に考える表現の自由とマイノリティ」
三輪晃義「芸術労働者は法律によって守られるか」
山田創平「芸術が、私と世界を架橋する」
遠藤水城+百瀬文(画=鬣恒太郎 撮影=堀井ヒロツグ)「小説 Dedication」
2021年3月1日 第一刷発行
編著:山田創平
発行所:株式会社左右社
装幀・組版:納谷衣美
編集:吉田守伸
印刷・製本:中央製版印刷株式会社
ISBN:978-4-86528-014-2 C0070
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出版記念プログラム「未来のアートと倫理のために」
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「未来のアートと倫理のために」出版に際して、芸術実践を行う各分野の識者の皆様より、各章への感想やコメントをいただきました。
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白川昌生氏(美術家、美術評論家)
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北村智子氏(Webメディア「paperC」事務局/おおさか創造千島財団 理事)
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小林瑠音氏(神戸大学国際文化学研究推進センター学術研究員)
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奥山理子氏(みずのき美術館 キュレーター)
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出版記念プログラム「未来のアートと倫理のために」
アートマネジメント座談会 記録公開
「未来のアートと倫理のために」出版に際して、アートマネジメントの実践を担う皆様をお招きし、各章への意見公開を行いました。対話を通じ、本書のテーマである「対等にアートをつくることとは?」という問いが、現場実践のリアリティをもって読者の皆様と共に考察する場となれば幸いです。